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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)330号 判決 1975年12月25日

原告

野口茂

ほか一名

被告

日本道路公団

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告ら訴訟代理人は、「(一)被告は、原告野口茂に対し、金六三五万三五〇円及び内金五二七万四、六〇〇円に対する昭和四八年二月一八日から、内金一〇二万六、五五〇円に対する同年七月一日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(二)被告は、原告野ロサヨ子に対し、金五二七万七、四〇〇円及びこれに対する昭和四八年二月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(三)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決並びに仮執行宣言が付される場合には担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求めた。

第二請求の原因

原告ら訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  事故の発生

原告らの二男野口英夫(以下「英夫」という。)は、昭和四八年一月二一日午後一一時一〇分頃、友人三村美恵子を同乗させ、普通乗用自動車(練馬五五せ五三七五号。以下「被害車」という。)を運転し、横浜市港北区新吉田町五、三九四番地先の都県道東京野川横浜線(通称・第三京浜道路。以下「本件道路」という。)上り車線の追越車線路上をヘツドライトを下向きにし、制限速度である時速八〇キロメートルで走行中進路前方路上に幅約一メートル、長さ約一・八五メートルの蒲団様の落下物を発見し、これを避けるため、ハンドルを左に切り、左側第二車線に進路を変更し、右落下物を避けたが、更に、右落下物の左斜め前方約一〇メートルの第二車線上に同様の落下物があつたため、これを被害車前面機関部に巻き込み、被害車は中央分離帯に衝突、横転し、英夫は三村と共に路上に放り出され、その結果、英夫は脊髄損傷、肺挫傷、胸骨結合部脱臼の傷害を受け、直ちに社会福祉法人恩賜財団済生会神奈川県病院に入院し治療を受けたが、昭和四八年二月一七日午前一〇時五〇分頃、敗血症等により死亡した。

二  責任原因

本件道路は、被告の設置、管理に係る有料の自動車専用道路で、東京・横浜間の枢要路線であり、その道路構造は、全長一六・六キロメートル、幅員は約三一メートル、片側三車線で外側に二・五メートルの路肩部分、これに接して内側に順に、幅員三・六メートルの第一、第二走行車線、同三・六メートルの追越車線、更にその内側に〇・七メートルの側帯(中央分離帯と追越車線の緩衝帯)があり、中央に幅三メートルの中央分離帯が設けられ、この分離帯には対向車の照明に対する防眩施設として植樹がなされており、交通量は昼夜を問わずひん繁である。道路管理者は、一般交通に支障を及ぼさないよう、常時、道路を良好な状態に維持すべき義務があるところ、本件道路を通行する自動車の車種、積載物の種類、その多寡、梱包、積載方法等は多種多様であるから、道路管理者としては、走行中の車両の積荷が落下し、他車に危険を及ぼす可能性のあることを予測し、通行車両からの落下物により、通行する車両に危険を及ぼすことのないよう道路条件に即し、事故発生を防止すべき適切な措置(たとえば、右防止の注意標識の設置、超過重量、梱包の可否等につき検査所の設置又は抜打検査等)を講じ、本件道路の安全を確保する義務を負つているものというべきである。殊に、被告は、本件道路を通行する車両から、受益者負担として通行料金を徴収しているのであるから、一般道路とは異なり、なお一層厳格な管理をなすべきである。

しかるに、本件道路上には前述のように落下物が放置されていたものであり、これは、公の営造物である道路が通常有すべき安全性を欠いていたものというべく、したがつて、本件事故は、被告の本件道路の管理に瑕疵があつたことに基因するものというべきであるから、国家賠償法第二条第一項の規定に基づき、被告は本件事故により原告らが被つた損害を賠償すべき義務がある。

三  損害

原告らは本件事故により次の損害を被つたものである。

1  英夫の逸失利益並びに原告らの相続

(一) 英夫は、昭和二二年一〇月一七日生まれで、昭和四五年三月中央大学経済学部を卒業後、同年四月一日東京トヨペツト株式会社に入社し、同社中野営業所の新車係セールスマンとして勤務していた者であり、本件事故当時、基本給金四万八、一〇〇円を含め手取月額は金五万九、六一六円で、このほかに賞与として年間二回、各期とも基本給の三・二か月分が支給され、昇給は年一割、定年は五五才であるが、六〇才に達するまで勤続可能であつたから、以上の事実を基礎とした右就労可能期間の総収入額から英夫の生活費五〇%を控除し、更に、ホフマン式計算法により年五分の割合により中間利息を控除し、英夫の得べかりし収入の死亡時における現価を算出すると、金七五四万九、二〇〇円となる。

(二) 原告らは、英夫の死亡により、父母として右逸失利益をそれぞれ相続分に応じ、二分の一あて金三七七万四、六〇〇円ずつ相続した。

2  慰藉料

原告らは、英夫の死亡により甚大な精神的苦痛を被つたものであり、これを慰藉するに足る金額は、原告ら各自につき、それぞれ金一五〇万円が相当である。

3  入院治療費

原告野口茂は、英夫の入院治療費として金八、〇〇〇円を支出した。

4  アパート賃借料

原告ら、英夫の付添のため前記病院近くのアパートを賃借し、原告野口茂はその賃料として金三万円を支出した。

5  付添料

原告らは、昭和四八年一月二一日から同年二月一七日まで英夫に付き添つたが、これによる原告らの損害はそれぞれ金二、八〇〇円となる。

6  入院諸雑費

原告野口茂は、英夫の入院二八日間の諸雑費として金八、四〇〇円を下らない金員を支出した。

7  葬儀費等

原告野口茂は、英夫の死亡に伴い次のとおり合計金七二万六、五五〇円を支出した。

(一) 葬儀費 金二四万一、二五〇円

(二) 葬儀当日回向料 金二〇万円

(三) 四九日忌 金五万円

(四) 位牌代 金三万七、〇〇〇円

(五) 仏壇購入費 金一一万一、〇〇〇円

(六) 墓碑建設費 金八万七、三〇〇円

8  弁護士費用

原告野口茂は、本件訴訟の提起を余儀なくされ、訴の提起及び追行を原告ら代理人に委任し、その着手金として金三〇万円を支出した。

四  よつて、被告に対し、原告野口茂は、前項1ないし8の同原告が相続により取得し、又は被つた各損害金の合計金六三五万三五〇円及び内同項1、2の合計金五二七万四、六〇〇円に対する昭和四八年二月一八日から、内同項3ないし8の合計金一〇二万六、五五〇円に対する同年七月一日から、各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告野ロサヨ子は、前項1、2及び5の同原告が相続により取得し、又は被つた各損害金の合計金五二七万七、四〇〇円及びこれに対する昭和四八年二月一八日から支払済みに至るまでの右同様年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

一  請求原因一項の事実中、原告ら主張の日時及び場所において、英夫運転の被害車が横転事故を起こしたことは認めるが、その余の事実は知らない。

二  同二項の事実中、本件道路が被告の管理に係ること、本件道路の構造及び交通状況が原告ら主張のとおりであること、及び被告が通行料金を徴収していたことは認めるが、その余は争う。本件道路の管理については、後記のとおり何ら瑕疵はない。なお、本件道路には、夜間における自動車の安全走行のための施設として、路肩部分に四五メートル間隔に照明灯(五〇〇ワツト水銀灯)が設置されており、本件道路の構造から夜間の見通しもよいから、車両運転者として通常の注意義務を払えば、本件事故は避けえたところ、英夫が車両運転者としての注意義務を怠り運転した過失により、本件事故は惹き起こされたものである。

三  同三項の事実は知らない。

四  被告の本件道路の管理には、以下詳述するとおり何らの瑕疵も存しない。すなわち、

1  被告は、川崎市高津区地内の本件道路沿いに第三京浜道路管理事務所を設け、職員を配置して本件道路を常時良好な状態に保つよう維持修繕し、一般交通に支障を来たさないように努めている。すなわち、本件道路上の交通事故防止のため、被告から交通管理の委託を受けた受託会社の職員(以下「交通管理員」という。)による道路の巡回を一日六回以上、被告職員による道路の巡回を一日二回以上行うほか、道路清掃請負業者による清掃業務を主目的とした道路の巡回を一日二回以上定期的に行つている。更に、右の正規の巡回のほかにも被告の職員が巡回以外の業務のため本件道路をひん繁に通行しており、この場合でも巡回に準じて道路上の障害物の除去等の交通管理を行い、また、全線に設置された非常電話による、あるいは料金所等に対する一般通行者からの通報があつた場合にも必要に応じ道路上の障害物を除去するため出動しており、極めて高度の道路管理体制を採つている。

2  被告は、本件事故当日も、前記の定期的巡回を行い、道路の安全確保に万全の注意を払つていたが、本件事故当日の午後一〇時七分頃、本件事故現場付近道路を巡回した際には、落下物その他交通に危険を及ぼすおそれのある状態は何ら存在しなかつた。ところが、被告の第三京浜道路管理事務所玉川料金所(以下「玉川料金所」という。)は、通行車両の運転手から、本件事故現場に落下物が放置されている旨の通報を受け、玉川料金所の職員がこれを交通管理員に連絡したのが同日の午後一一時一〇分頃であり、交通管理員が右落下物を除去するため直ちに出動したが、右交通管理員が本件事故現場に到着した時には既に本件事故が発生していた。以上の状況から右落下物の落下時刻を推計すると、本件事故現場から玉川料金所までの距離が約七キロメートルで、自動車では通常五分間を要するところであり、当日の交通量が一分間に約一〇台の進行状況であつたから、仮に一〇台目の通行車両の運転手から右通報を受けたとすれば、玉川料金所の職員は落下物が落下して六分後に通報を受けたこととなり、これを交通管理員に電話連絡するのに三分間もあれば充分であるから、結局、交通管理員への連絡は落下物を発見して九分後ということとなり、これを前記連絡時刻から逆算すると、右落下物の落下した時刻は午後一一時一分頃と推定される。したがつて本件事故は、右落下物が落下して九分以内に発生したこととなる。

3  以上のとおりであるから、被告の本件道路の管理には何らの瑕疵はなく、本件事故は、落下物の落下後、極めて短時間のうちに発生したものであり、被告にとつて、右落下物を除去して事故を未然に防止することは不可能というべく、本件事故の発生は不可抗力によるものというべきである。

4  道路法第四三条の二には、道路管理者は、車両の積載物が落下するおそれがある場合には、当該車両を運転している者に対し必要な措置をすることを命ずることができる旨規定されているが、これは、道路交通法第六一条に規定する警察官の措置と相俟つて道路の安全を確保しようとしたものであり、道路管理者は、その管理に係る道路の通常の管理に従い、積載不良車を発見したときは、当該車両の運転者に対し、必要な措置を命ずる義務があるにすぎず、当該道路を通行するすべての車両について積載物が落下するおそれがあるか否かを厳重に検査する義務を負わされているものではない。ところで、被告は、本件道路巡回中及び料金所において、積載不良車を発見したときは、当該車両の運転者に対し、その都度必要な措置を命ずるなど本件道路の管理に万全を期していたものであるから、その管理には何ら瑕疵はない。

5  本件道路が有料道路であることは原告ら主張のとおりであるが、このため被告が特別の管理義務を負うものではない。すなわち、本件道路は、道路法第三条にいう都道府県道の一であり、本来の道路管理者は東京都、川崎市及び横浜市であるところ、被告は、道路整備特別措置法第三条第一項の規定に基づき本件道路を建設し、これを供用して料金を徴収しているものである。しかして、被告の本件道路の管理は、同法第七条の規定に基づき本来の道路管理者の権限を代行しているものであり、その管理は道路法の規定に基づいて行われるもので、他の国道、都道府県道、市町村道の場合と同じであり、道路運送法による自動車道事業とは根本的に異なり、料金を徴収することにより被告が特別の管理義務を負うことになるものではない。

第四証拠関係〔略〕

理由

(事故の発生)

一  〔証拠略〕を総合すると、英夫が、昭和四八年一月二一日午後一一時一〇分頃、被害車を運転して本件道路上り車線の追越車線を横浜方面から東京方面に向かい走行し本件事故現場に差しかかつたところ、進路前方追越車線路上に敷ぶとんを三ツ折りにして包んだ赤と黄色の花模様のたてよこそれぞれ約一メートルの風呂敷包み(以下「第一落下物」という。)を発見し、これを避けるためハンドルを左に切り進路を第二走行車線に転じたが、第一落下物の落下地点の左前方の第二走行車線上の第一走行車線寄りの部分に紺地に赤と白の花模様のたて一メートル、よこ一・八五メートルの敷ぶとん(以下「第二落下物」という。)が落下していたため更にハンドルを右に切つてこれを避けようとしたが、車体のバランスを崩し、慌てて急ブレーキをかけたところ、第二走行車線の中央付近から中央分離帯に向かいやや右回りに弧を描いて約四一メートル滑走し、中央分離帯に乗り上げ、中央分離帯の上を、植木を押し倒し芝生を堀り起こしながら暴走し、植木に激しく衝突して横転し、なおも横向きに転がり、中央分離帯に衝突した地点から約六四・七メートル前方で、進行方向に対し横向きに、車体前部を下り車線追越車線にはみ出し、車体後部を中央分離帯に乗せ転覆した状態で停止した。しかして、英夫は、右事故により脊髄損傷、胸部挫傷、胸骨骨折、第四胸椎骨折、胸部結合部脱臼の傷害を受け、社会福祉法人恩賜財団神奈川県病院に入院し治療を受けたが、昭和四八年二月一七日午前一〇時五〇分頃死亡したことが認められ(右事実のうち、原告ら主張の日時、場所において、英夫運転の被害車が横転し、事故を起こしたことは、本件当事者間に争いがないところである。)この認定を覆すに足る証拠はない。叙上認定の事実に徴すると、本件事故は、第一落下物及び第二落下物が本件道路上に存在したことに起因することは明らかである。

(道路管理の瑕疵の有無について)

二 当裁判所は、以下述べる理由により、被告には本件道路の管理につき何ら瑕疵はなく、原告らのこの点に関する主張は理由がないものと判断する。

1  まず、本件道路の構造及び本件事故発生時の道路状況をみるに、本件道路は、都県道東京野川横浜線で、被告の管理に係る自動車専用道路であり幅員約三一メートル、片側三車線の道路で、上り車線、下り車線それぞれに、外側から内側へ順に、幅二・五メートルの路肩、幅各三・六メートルの第一、第二走行車線及び追越車線、幅〇・七メートルの側帯があり、中央に幅三メートルの中央分離帯が設けられていること、中央分離帯に防眩施設として植樹がなされていることは当事者間に争いがなく、また、〔証拠略〕を総合すると、本件道路は、本件事故現場付近ではほぼ直線となつており、進行方向にやや上り勾配となつているが見通しがよく、道路の両側には四五メートル間隔で照明灯が設置されていること、本件事故当時、これら照明灯は点灯されており、本件事故現場付近は明るく、前説示のとおり本件事故の一因となつた落下物のような物が路上にある場合でも約一五〇メートル離れたところから見うる状況にあり、路面はアスフアルト舗装で乾燥していたこと、最高速度は毎時八〇キロメートルと指定され、本件事故発生当時、本件道路上り車線の車両通行量は毎分約一〇台であつたことが認められ、叙上認定を妨げる資料はない。

2  次に、右認定、説示の本件道路状況等の下において、被告の実施している道路管理の実態及び事故当日の道路管理状況等を審究するに、〔証拠略〕を総合すると、(一)被告は、ハイウエイ開発株式会社(以下「ハイウエイ開発」という。)に本件道路の交通管理業務を委託するとともに、道路通常維持作業を請負わせ、同社をして、本件道路全線にわたり、巡回車により、一日六回定期的に巡回させ、交通事故、路上落下物その他異常事態のある場合には被告に通報し、かつ、交通に支障のないよう落下物の排除等必要な措置を講じさせ、その他災害、異常気象の発生の場合、交通に支障となるおそれのある物件がある場合等には被告の指示により臨時に巡回せしめ、また、ロードスウイーパーによる路面機械清掃を週二回(月曜日及び金曜日)、ロードスウイーパーによらない補足的な補助清掃を一日二回行わせていたほか、被告の職員による道路安全確保のための巡回を一日二回(午前一〇時及び午後二時)以上行い、更には、被告職員が通常の事務連絡等のため、あるいはハイウエイ開発、ハイウエイトールサービス株式会社の職員が業務(ハイウエイ開発は料金収集業務、ハイウエイトールサービス株式会社は料金収集のための機械の保守、点検)のため、しばしば本件道路を通行しており、これらの者が道路の異常を発見した場合には、被告との契約による協力義務として、障害除去のため必要な措置を採り、又は被告に通報するなどしていること、以上の結果、午前九時から午後六時までの間は三〇分ないし一時間の間隔で、午後六時から翌日午前九時までの間は三時間ないし四時間の間隔で道路状況の監視がされていること、及び本件道路には約一キロメートル間隔に非常用電話が設置され、異常事態の際には通行車両の運転手による電話通報ができるようになつており、通報を受けた管理事務所では直ちに巡回車等に連絡して現場への出動をなしうる体制になつていること、(二)右のような道路管理体制の下に、道路の安全を確保するため、被告は、ハイウエイ開発又は被告職員をして、積載不良車を発見した場合には、その場で当該車両運転者に対し、積載物が落下するおそれがないように積載方法を直させる措置を採らせ、又は積載方法を直すよう注意をさせ、また、料金所の料金徴収員にも、料金徴収業務に際し積載不良車を発見した場合には、当該車両運転者に対しその旨注意させており、これらの措置により本件事故時まで本件道路において路上落下物による人身事故は皆無であつたこと、(三)本件事故当日、ハイウエイ開発の巡回車は、定期的巡回として、午前一時、同六時、同一〇時、午後二時、同六時、同九時三〇分に各出発、巡回を開始し、それぞれ、午前二時三〇分、同七時三〇分、同一一時三〇分、午後三時三〇分、同七時五五分、同一一時一〇分に帰着、巡回を終了し、補助清掃も行われたほか、被告職員による巡回は、午前九時から同一〇時三〇分まで及び午後四時三〇分から同六時までの二回にわたり行われ、右午後九時三〇分から同一一時一〇分までの定期的巡回には、巡回車(当時交通管理担当助役である上ケ島正義外一名同乗)が本件事故現場の上り車線を午後九時五五分頃、本件事故現場の反対車線、すなわち下り車線を午後一〇時一〇分頃通過したが、本件事故現場の上り車線通過時及びその反対車線(下り車線)通過時において、本件事故現場(上り車線)付近には落下物等の異常はなかつたこと(なお、本件事故現場において、下り車線から中央分離帯を通して上り車線の状況は十分見ることができる。)、(四)本件事故発生時頃、通行車両運転手から玉川料金所料金集金員に対し本件落下物が放置されている旨の通報があり、同料金所から直ちに被告の横浜新道管理事務所にその旨連絡され、同事務所は、前記午後一一時一〇分巡回終了の巡回車がその巡回を終了する直前頃、右巡回車に対し、無線で本件落下物が放置されている旨連絡し、右巡回車は直ちに現場へ急行し、同三七分頃本件事故現場に到着したが、既に本件事故が発生していたこと、以上の事実が認められ(右認定を左右するに足る証拠はない。)、叙上認定の事実、特に本件道路巡回の密度間隔、本件障害物についての通報のあつた時刻及び本件事故当時の時間帯の本件道路上り車線の車両通行量が毎分約一〇台であつた事実等に徴すると、玉川料金所から横浜新道管理事務所までの電話連絡には五分以上は要しないこと明らかであるから、前記通行車両の玉川料金所への通報は、前記巡回車が連絡を受ける直前、早くとも午後一一時五分頃で、通報車両が本件現場付近を通過したのは午後一一時頃であり、本件落下物の落下もまたそのころであつたと推認するのが相当である(この事実を覆すに足る証拠はない。)。

3  以上認定の事実関係に照らすと、落下物が放置されていた点において、本件道路の安全性に欠除があつたといわざるをえないが、被告の本件道路の管理体制には、その通行の安全性の確保において欠けるところはなく、本件落下物の前示推定落下時刻からみて、右落下は本件事故発生直前に他車により惹起されたものであり、被告が遅滞なくこれを除去し道路を安全良好な状態に復することはおよそ時間的に不可能というべきであつて、このような状況の下においては、被告の道路管理に瑕疵があつたものとは到底認めえないものというべきである。

なお、原告らは、被告が本件道路につき通行料金を徴収していることを理由にその管理義務が一般道路に比し高度であるべき旨主張するから判断するに、本件道路は道路法第三条第三号にいう都道府県道であつて、本来の道路管理者は同法第一五条及び第一七条第一項の規定により東京都、川崎市、横浜市であるところ(このことは〔証拠略〕から明らかである。)、被告は、道路整備特別措置法第三条第一項及び第七条の規定に基づき、前記道路管理者に代わつて、その権限を代行しているのであつて、その管理は、本来の道路管理者が行う場合と異なるところはなく、一般の都道府県道と同様道路法に基づきなされるべきものであり、被告が通行料金を徴収しているからといつて道路法に定める以上の道路管理義務を負ういわれはない。もつとも、本件道路は、前示のとおり最高速度が毎時八〇キロメートルと指定された自動車専用道路であり、このような最高速度の指定された道路の場合、最高速度がこれより低く制限されている道路よりは危険度も高く、したがつて、より高度の管理を要求されるものと解すべきであるが、この点を考慮に容れても、前示被告の本件道路の管理に瑕疵があつたものと認めることはできず、上記原告らの主張は到底採用するに由ないものといわざるをえない。

(むすび)

三 叙上の次第であるから、被告の本件道路の管理に瑕疵があつたことを前提とする原告らの本訴請求は、その前提において理由がないからその余の点につき進んで判断するまでもなく失当というほかない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条及び第九三条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 武居二郎 玉城征駟郎 伊藤保信)

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